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教員紹介

永峰 康一郎

名古屋大学 大学院 情報学研究科 複雑系科学専攻 創発システム論講座 准教授
(情報学部 自然情報学科 兼担)

研究内容

自然および人間環境に存在する各種情報の抽出と解析

 自然界に存在する物質,人間社会に存在するシステムなどには,それらの起源や性質などに関する多くの情報が含まれています。本研究では様々な手法を用いて,それらの物質やシステムからまず各種データを抽出し,次に得られたデータを解析し,そして得られた結果を可視化することによって,それらの起源や性質を明らかにしていきます。

(1) 呼気中アセトンに着目した運動による脂肪燃焼効果の推定
 ダイエットや運動をしたらどの程度脂肪が減少するのか?これが実感しにくいのでダイエットに身が入らず,途中であきらめてしまうことが多いと思います。本研究ではこの脂肪燃焼の指標としてアセトンに着目しました。アセトンは体内で脂質代謝によって生成され,分解されずに呼気や尿と共に体外へ排出されます。体内の生理学的状態を知る方法は血液検査が最も一般的ですが,採血は痛みを伴い体内で循環している血液を抜き取るため体に負担がかかります。これに対して呼気は自然に排出されるものなので,繰り返し採取しても体に負担がかかりません。本研究では運動前後に呼気を採取し,呼気に含まれる微量のアセトンの濃度変化を明らかにすることによって,呼気中アセトンを脂肪燃焼の指標として確立することを試みています。

(2) 地名と地球化学図(元素地表濃度分布)の比較
 地名の由来には地質と密接な関連を持つものがあります。この一つの例として全国に散在する「丹生」という地名があります。「丹」とは赤土を意味しますが,土を赤くする原因の一つに辰砂という水銀を含む赤色鉱物があります。日本では古代に仏像の金メッキや不老不死の薬として水銀が重用され,水銀を産出する土地は注目されたので「丹生」という地名が付けられたと考えられます。しかしそれらの土地の多くは水銀埋蔵量がわずかであったため,鉱山跡が残っているところはほとんどなく,地名のみが残されました。一方,近年産業技術総合研究所地質調査センターによって日本全国の地球化学図が整備され,各種元素の地表濃度分布が公表されました。本研究では,今も各地に残る「丹生」という地名と地球化学図の水銀の濃度分布とを比較し,それらの地名の由来が水銀によるものかどうか検討を行っています。

(3) デジタルカメラとGPSと各種センサを組み合わせた撮影画像の位置推定
 昔撮影した風景写真が引き出しから出てきたが,日付は写っているもののどこで撮影した写真か分からない,このような経験はありませんか。フィルムカメラの時代から写真に時間情報(日付)が付けられることはあっても空間情報(位置)はありませんでした。もし撮影と同時にどこで,さらにどちら向きに撮影されたかという空間情報が記録されれば様々な用途に役立ちます。例えば風景を以前と全く同じアングルで撮影することによって土地利用の変化を比較したり,離れた2点から同時に積乱雲を撮影することによって積乱雲の位置を推定し,昨今被害が顕在化しているゲリラ豪雨の予測にも役立ちます。本研究では,デジタルカメラにGPSや方位センサ・加速度センサを組み合わせて撮影と同時に位置情報を記録するシステムを開発し,その応用を試みています。

(4) 気体炭素化合物に着目した花崗岩生成環境の推定
 高温高圧のマグマが地下深部で冷却固結してできた花崗岩の生成過程を具体的に知ることは容易ではありません。特にマグマの酸化還元状態は派生する資源鉱物に関わる重要なパラメータですが,これまでは主として鉱物学的手法により推定が行われてきました。本研究は花崗岩に包有されている気体炭素化合物に着目し,その組成比から岩石生成時の酸素分圧や温度を推定しようと試みるものです。具体的には,花崗岩試料を密閉容器内で破砕し,放出された気体炭素化合物(主にメタン・エタン・一酸化炭素・二酸化炭素)をガスクロマトグラフで分析します。そしてこれらの組成が岩石生成時に熱力学的平衡にあると仮定し,理論的計算結果と分析結果とを比較することによって酸素分圧や温度を推定します。結果の一般性を追求するために,世界各地(オーストラリア,ヨーロッパ,日本など)の花崗岩試料の分析を行っています。

オーストラリアの花崗岩研究(右下が本人)

(5) 日本とアメリカの住所表記システムの比較
 日本とアメリカでは住所表記システムが根本的に異なり,日本では面(街区)を基本としているのに対して,アメリカでは線(通り)を基本としています。これらの違いから,特定の番地を探し当てるのは一般的にアメリカの方が容易です。これらの相違は歴史的・地理的要因に依るものですが,本研究では情報学的観点から,どちらのシステムが合理的であるか考察を行います。具体的には,日本およびアメリカで規模のほぼ等しい都市を選定し,それぞれ住所表記に必要な情報量を推定し,またそれぞれのシステムを相互に入れ換えたシミュレーションを行って,両者の合理性を様々な観点から検証しています。

(6) 地球観測衛星画像の解析
 近年ランドサットやだいちなど地球観測衛星が多く打ち上げられるようになり,以前より容易に高解像度の衛星観測画像が入手できるようになりました。一方,これらの画像データ解析に不可欠な地図については,従来広く用いられてきた地形図などの紙地図に加えて,最近では精密な数値地図の普及も進んでいます。本研究ではこれらの衛星画像データと数値地図とを組み合わせて,人口分布などを推定する衛星画像解析を行っています。

(7) 岩石薄片の偏光顕微鏡画像の解析
 岩石に含まれる鉱物の分布,あるいは諸性質を知る上でその薄片を偏光顕微鏡で観察することは古くからよく行われてきました。しかし光学的性質から鉱物の種類を同定し,それらの含有割合を決定することは熟練者でも手間と時間のかかる作業でした。本研究はデジタルカメラで偏光顕微鏡画像を撮影し,画像解析によって鉱物鑑定の自動化を試みるものです。具体的には,単ニコルおよび直交ニコルにおいて撮影角度の異なる画像を何枚かそれぞれ撮影し,薄片各部の多色性や干渉色の変化を検出することによって,そこに存在する鉱物の種類を同定し,同時に画像に含まれる各鉱物の割合を算出するアルゴリズムを開発しています。

略歴

1991年 名古屋大学 大学院 理学研究科 地球科学専攻 博士課程後期課程満了
1992年 名古屋大学 工学部 原子核工学科 助手
1993年 博士(理学)学位取得(名古屋大学 大学院 理学研究科)
1995年 名古屋大学 大学院 人間情報学研究科 助手
2000年 名古屋大学 大学院 人間情報学研究科 助教授
2003年 名古屋大学 大学院 情報科学研究科 助教授(改組)
2007年 名古屋大学 大学院 情報科学研究科 准教授(職位名称変更)
2017年 名古屋大学 大学院 情報学研究科 准教授(改組)現在に至る。

この間、1997年 文部省在外研究員(米国アラスカ大学フェアバンクス校地球物理研究所

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